【宁】【拆】【不】【逆】
「キスの時くらいちゃんと目閉じろよ」
病室。あれから三日経った。
「いやだ」
遙は相変わらず頑なな態度をとったが、その目に陰が潜んでいる。
「水を‥」怖がった。口に出来ず、黙りこむ。
一瞬だけだけど、君が助かるようと願い、拒まれた。
「何んだ?」凛の声は優しい。少し掠れて、いつもの強気はない。
「溺れ死んだら一生笑ってやる」目を逸らし、本音を隠す。
「なッ?はるッ!てめぇー」
「晩ご飯なにがいい?鯖か?買ってくる」
口実を作って逃げ出すその背中に、凛はそっと呟いた。
「遙、俺は大丈夫だ。たとえどんなことがあっても、水泳を諦めたりはしない。もう、とっくに決めたんだからな」
「‥ん」とだけ返し、遙は振り向かずに出ていった。
窓から落ちる真夏の強い日差しに眩暈を覚える。事故以来ずっと残された不安が吹き飛ばされたように消え去った。
水が恋しい。
「三日‥か。早く泳ぎたい。こいつと。」
そう思いながら、遙は歩き出した。